近年、「障害年金の専門家=社労士」という認識は、以前より広がってきたように感じます。
実際、社労士が関与することで、
「30年前の初診日を証明できた」
「神経症とされていたが認定につながった」
など、制度上難しいケースで結果につながることもあります。
その一方で、社労士の役割について十分に知られていないため、
「もっと医師に強く言ってほしかった」
「病院との間に入って対応してくれると思っていた」
など、期待とのズレが生じることもあります。
障害年金は、社労士だけで完結する手続ではありません。
医師、本人、ご家族、勤務先など、多くの関係者との連携の中で進んでいく制度です。
そこで今回は、障害年金の分野において、社労士に「できること」と「できないこと」を整理しながら、社労士へ依頼する際に知っておきたいポイントを解説します。
もくじ
⭕️社労士にできること
障害年金の請求では、「どのような病気や症状か」だけでなく、
・初診日を証明できるか
・保険料納付要件を満たしているか
・診断書や病歴・就労状況等申立書の内容が制度上どのように評価されるか
など、さまざまな要素が関係します。
社労士は、こうした制度面を整理し、請求手続きをサポートする専門家です。
具体的には、次のような支援を行います。
1初診日の整理・証明資料の収集サポート
障害年金では、「初診日」が非常に重要です。
しかし、初診から何十年も経過しているケースでは、
・カルテが廃棄されている
・病院名を覚えていない
・転院を繰り返している
など、証明が難しいことも少なくありません。
社労士は、受診歴を時系列で整理し、どの資料が使えそうかを検討しながら、初診日証明に向けたサポートを行います。
2診断書の確認と制度上の整理
障害年金では、診断書が重要な資料になります。
ただし、「症状が重い=必ず認定される」というわけではなく、認定基準に照らしてどのように評価されるかが重要になります。
社労士は、診断書の内容を確認し、
・認定基準との関係
・日常生活能力の評価
・就労状況との整合性
などを整理しながら、請求全体を組み立てていきます。
3病歴・就労状況等申立書の作成支援
病歴・就労状況等申立書は、診断書だけでは伝わりにくい生活上の困りごとや経過を補足する書類です。
長期間の病歴を整理することは、本人やご家族にとって大きな負担になることもあります。
社労士は、これまでの経過を丁寧に確認しながら、制度上必要なポイントを整理して書類作成を支援します。
4結果に納得できないときの不服申立て
障害年金は、請求すれば必ず認定される制度ではありません。
不支給となった場合や想定していたより低い等級に決定した場合には、決定内容を確認し、
・どの点が問題と判断されたのか
・追加資料の提出が可能か
・認定基準上どのような主張が考えられるか
などを検討し、審査請求や再審査請求を行うこともあります。
5本人や家族の負担軽減
障害年金の手続きは、必要書類が多く、長期間の病歴を振り返る必要もあるため、精神的な負担が大きくなることがあります。
社労士に依頼することで、手続き全体の見通しが立ちやすくなり、本人やご家族の負担軽減につながる場合があります。
61~数か月分多く年金を受給できることもあります
事後重症請求(現在の状態で請求する障害年金)は、請求した月の翌月分から年金が支給されます。
そのため、請求が1か月遅れると、受け取れる年金も1か月分少なくなる可能性があります。
逆に、早めに請求を進めることで、その分早く受給開始につながることがあります。
当社で行う障害年金請求のうち、約7割が事後重症請求となっています。
また、手続きに慣れていない場合、
・必要書類が分からない
・医療機関とのやり取りに時間がかかる
・年金事務所で何度も修正になる
などにより、請求まで数ヶ月かかってしまうケースも少なくありません。
社労士が関与することで、必要資料や進め方を整理しながら効率的に手続きを進められるため、結果として本人請求よりも早く請求完了につながることがあります。
特に事後重症請求では、「いつ請求したか」が受給開始時期に直接影響するため、早めの準備が重要になります。
❌️社労士にできないこと
1本人と主治医との関係性を飛び越えて介入すること
障害年金は生活にとって大切な制度ですが、それ以上に大切なのは、患者さんと主治医との信頼関係です。
もし、事前説明がないまま第三者である社労士から突然連絡が入れば、医師側に戸惑いや不信感が生じ、それまでの関係性に影響する可能性もあります。
そのため、現在の主治医については、まず本人から、
・障害年金用診断書の作成をお願いしたいこと
・手続きは社労士へ依頼予定であること
を伝え、理解を得ておくことが大切です。
社労士は、本人と医師との関係性を尊重しながら、制度面や手続面を支援していく立場になります。
2診断内容そのものについて変更を求めること
診断書について、
・記入漏れがある
・初診日が誤っている
・就労状況に誤解がある
など、客観的な事実確認の範囲であれば、医療機関へ確認をお願いすることはあります。
一方で、医師の所見である
・症状の重さ
・日常生活能力の評価
・障害の程度
といった医学的判断そのものについて、社労士が変更を求めることはできません。
実際には、
「診断書が思ったより軽く書かれていた」
「社労士から医師へ強く伝えてほしい」
という相談を受けることもあります。
しかし、診断書は医師が医学的見地から作成するものであり、その判断内容に社労士が介入することはできません。
また、依頼者の利益のために相手方と交渉を行うことは、法律上、弁護士業務(いわゆる非弁行為)に該当する可能性もあります。
そのため社労士としては、
「どのような事情が十分伝わっていない可能性があるか」
「本人からどのように説明すると伝わりやすいか」
を整理することはできますが、診断内容そのものへ介入することはできません。
最後に
社労士は、制度や手続きの専門家として、必要資料の整理や請求方針の検討を行う、いわば後方支援の役割です。
一方で、主治医へ日頃の生活状況や困りごとを伝えたり、障害年金用診断書の作成をお願いしたりするのは、依頼者ご本人です。
そのため、障害年金の請求は、「社労士がすべて代行する」というより、「本人と社労士が協力して進めるもの」と考えた方が実態に近いでしょう。
例えるなら、社労士は登山のガイドのような存在です。
ルートや注意点、必要な準備には詳しくても、実際に山を登るのは本人です。
だからこそ、依頼者ご本人の主体的な関わりが、結果にも大きく影響します。
そのうえで、経験やノウハウを持つ社労士が伴走することで、より適切な請求につながることがあります。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士
