報道の概要
年末年始にかけて、日本年金機構の職員が医師の判定結果を破棄していたとする報道がありました。報道内容だけでは事実関係が分かりにくい部分も多く、当社にも「このような状況で障害年金を請求しても大丈夫なのか」といった不安の声が寄せられています。
ここでは、不安を感じている方に向けて、報道の概要とそれに対する当社の考え方を整理してお伝えします。
2025年12月28日報道(共同通信)
【独自】障害年金、医師の判定を破棄 機構職員、ひそかにやり直し
■概要
日本年金機構の障害年金審査で、本来は医師が行う障害の程度判定について、担当職員が医師の判定結果を勝手に破棄し、別の医師に再判定させていたことが明らかになった。このような職員の介入は権限のない行為であり、長年続いていたとみられ、判定のやり直しによって受給権を奪われたケースがある可能性が指摘されている。問題を受けて厚生労働省が調査に乗り出すなど、制度への信頼が揺らいでいる。
■解説
年金機構の職員は、提出書類が適切に揃っているか、保険料納付要件を満たしているかといった形式面の確認を主に担当します。
一方、障害等級の判定といった医学的な判断については、年金機構が委嘱した医師(認定医)が行う仕組みとなっています。こうした役割分担により、審査の公平性と迅速性が保たれてきました。
ところが報道によれば、認定医の判定結果について、職員が「甘すぎる」「厳しすぎる」と独自に評価した場合、その判定を破棄し、別の認定医に再度判定を依頼していたケースがあったとされています。しかも、その事実は、最初に判定を行った認定医には知らされていなかったとされています。
2026年1月6日報道(毎日新聞)
年金機構、障害年金審査で医師の認定調書を破棄 厚労省が調査へ
■概要
厚労省は、日本年金機構による障害年金の審査において、認定医が作成した「認定調書」を職員が不備ありと判断して破棄し、別の認定医に審査を依頼し直していたケースが複数確認されたと発表した。破棄されたのは、等級の号数が傷病と合わない、必要書類が添付されていないなどの不備があった調書で、意図的に認定医の判断を覆す目的で破棄した事例は把握していないとしている。
年金機構側は、迅速な処理のため、対応可能な別の医師に依頼したことがあったと説明しており、破棄には複数の職員が関与していた。厚労省は、訂正プロセスの一環で調書を作り直し不要となったものを破棄したとの認識を示す一方、審査途中の認定調書の法的な位置づけが不明で、破棄が適切だったかは現時点で判断できないとしている。
今後、記録が残る昨年秋以降の調書を確認し、一連の対応に問題がなかったかを調査する方針である。
■解説
「認定調書」とは、傷病名や初診日、加入している年金制度、就労状況や日常生活の状況などを整理した内部資料で、障害等級を判断する際のたたき台となる重要な書類です。
厚生労働省は、認定調書が破棄されていた事実は確認したものの、「認定医の判断を意図的に覆す目的があったかどうか」については不明としています。
また、認定調書の法的な位置づけが明確でないことから、その破棄が適切であったかについても、現時点では判断できないとの見解を示しています。
■当社の考え方
認定調書は、不支給や想定よりも下位等級と判断された場合に、どのような認定プロセスが踏まれたのかを確認するうえで不可欠な書類です。そのような重要資料について、職員が「甘すぎる」「厳しすぎる」と独自に評価して判定を破棄した行為を、「迅速な処理のため」と説明する年金機構の姿勢には疑問を抱かざるを得ません。
そもそも認定医は、個人的な感覚や裁量で等級判定を行っているわけではなく、障害認定基準や等級判定ガイドラインといった明確な基準に基づいて判断しています。
仮に「甘すぎる」「厳しすぎる」と評価されたのであれば、その認定医が基準を十分に理解していない可能性も考えられます。そうであれば、同様の判定は今後も繰り返されるでしょう。
本当に迅速な処理を目的とするのであれば、判定を破棄するのではなく、認定医が基準を正しく理解できるよう、職員側が丁寧に説明・指導することこそが本来あるべき対応ではないでしょうか。
また、いわゆる「不支給急増問題」について厚生労働省の調査報告書が公表されたのは、2025年6月のことでした。その報告書では責任の所在は曖昧なままで、結果として誰も責任を負わない形となりました。それからわずか
半年で、今回のような新たな問題が表面化している点を見ると、厚労省や年金機構による内部調査だけでは限界があるのではないかという疑念も拭えません。
■不安に感じている方へ
現時点では、本件が表面化したことによる審査傾向の具体的な変化は確認されていません。過去を振り返ると、いわゆる「不支給急増問題」が報道された後、それまで厳しめだった審査が、一時的に緩和されたと感じられる時期がありました。
今回も同様の動きになるかどうかは断言できませんが、少なくとも、この報道をきっかけに審査が一層厳しくなるとは考えにくいというのが当社の見解です。
今回の報道を理由に、障害年金の請求そのものを諦めてしまうことがないようにしていただければと思います。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士
