もくじ
報道の概要と当社の見解
社会保険労務士・精神保健福祉士の小西です。
今年3月に共同通信が「障害年金の不支給増加」を報道後、新聞やネットニュースでも取り上げられ、4月末以降はSNSで「障害年金」が連日トレンド入りしています。
まだ全体像が見えない方のために、現在までの報道内容を時系列にまとめ、最後に考察を加えさせて頂きたいと思います。
報道の概要
第1弾(3月13日)
【独自】障害年金、不支給が増加か 24年、精神・発達は2倍
サンプル調査(複数の社労士が協力)により、23年と24年で計2千件超の申請を集計した結果、精神・発達障害では24年の不支給割合が23年比で2倍に増えていた。
判定機関である日本年金機構(機構)は取材に対し「審査方法などは変更しておらず、基準に基づき適正に判定している」と回答した。
第2弾(4月11日)
「あなたの年金申請は認められません」うつ病女性の涙 精神・発達障害で不支給が2倍増?ナゾを追った
3/11の加筆・再構成版をリリース。東海地方に住む20代の城島志帆さん(仮名)の事例など、去年から続く不可解な審査について取り上げ、判定は「ブラックボックス」と指摘。
第3弾(4月28日)
【独自】障害年金、不支給が倍増3万人に 24年度、幹部交代で厳格化か
新たに判明したことは次の2つです。
・機構の内部資料で不支給割合が前年度に比べて2倍以上(3万人)に
・2023年10月に障害年金センター長が交代した直後から職員が判定医に低い等級や「等級非該当」と提案するケース増
報道が加熱したのは、この記事がリリースされた後です。それまでは、社労士によるサンプル調査だったのに対して、(機構の)内部資料でも「不支給が倍増」が裏付けられました。
さらに、機構の障害年金センター長が交代した直後から厳しい判定になったことが明らかになりました。
第4弾(4月29日)
【独自】障害年金判定、判断誘導の可能性 機構、医師の傾向と対策文書作成
機構は140名の医師(認定医)に等級判定を委託しており、一人ひとりの傾向と対策をまとめた文書を作成していることが判明。文書には機構の意向に沿うよう認定医の判断誘導を窺わせる記述。
以上が、これまで報道された概要です。
日本年金機構が抱える構造的懸念点とは
これより、私見と今後の見通しについて述べさせていただきます。
一連の報道をシンプルにまとめると、次の流れになっています。
- 機構の障害年金センター長が交代
- 機構の意向に沿う認定医のリスト作成
- カルテ提出を求めるなど審査が厳格化
- 不可解な理由で不支給が倍増
根本の問題は審査・認定業務の構造的な要因が関係しています。
令和3年までは、認定医が1次判定を、機構職員が2次判定を担当していました。令和3年以降は、1次判定を機構職員、2次判定を認定医、とそれまでとは逆の認定フローになりました。そうすると、等級判定の主導権は1次判定の機構職員が握ることになり、2次判定の認定医が異なる判定をしたとしても、(セカンドオピニオンとして)機構は意向に沿う認定医の判定を採用することが可能です。
また、機構から審査・認定業務を受託している認定医が、委託者である機構と異なる判定をすることは心理的障壁が生じやすいという側面があります。これらの懸念は過去の記事で詳しく解説しています。
実務者として抱いていた違和感
個人的に審査傾向の変化を感じたのは去年の3月頃です。
過去にも厳しくなったり、緩やかになったりと一時的な波はありました。
しかし、今回は1年以上続いており、それまでほとんどなかったカルテ開示が急増し、比例して不支給が多くなりました。
不支給だけでなく、2級相当の診断書でも、「ひとり暮らし」「休職中(改善の余地あり)」の理由で3級になることもしばしば。
この現象は長期間かつ本気度が窺われ、組織(機構または厚労省)として意思決定であると認識しましたが、一方で引っかかる部分が2つありました。
1つ目は「省庁がこれほど性急な取扱い変更をするかな?」という違和感です。政府は心理的抵抗や社会的混乱を避けるため、制度を少しずつ変更する傾向があります。年金制度でいうと「マクロ経済スライド(物価に応じた給付の増加額を抑える仕組み)」や「特別支給の老齢厚生年金(厚生年金の受給開始年齢を60歳から65歳に段階的引上げ)」がこれに相当します。
2つ目は「(障害厚生年金)初診日要件の緩和」など厚労省の年金部会で障害年金制度の見直しの議論が同時に行われていたことです。
見直し案は、障害年金の請求者にメリットがあるものばかりでした。見直し案の議論と審査厳格化はアクセルとブレーキを同時に踏んでいるかのように映りました。
報道によると、2023年10月に交代した障害年金センター長の意向により、審査厳格化へ舵が切られたとのことです。
組織としての意思決定でなく、担当部署トップの個人的な判断が事実であれば、抱いていた2つの疑問点はクリアになります。
今後の審査傾向について
個人の意向による審査厳格化であれば、報道を受けて機構の審査は以前の状況に戻る可能性が高いと考えています。
偶然かもしれませんが、当社では去年の6月以降、毎月あった医師照会(カルテ開示)が直近1ヶ月ではなくなりました。
ただし、認定フローを適正化するなど構造的な問題を解消しなければ、根本的な解決とはならないでしょう。

- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士