障害年金の請求前に知っておきたい「カルテ照会」―請求日から逆算して考えるポイント
障害年金の請求では、「できるだけ早く請求したい」と考える方が多いと思います。
特に事後重症請求の場合、原則として請求した翌月分から年金が支給されるため、請求が1か月遅れることで、受け取れる年金が1か月分少なくなることがあります。そのため、基本的には早めに手続きを進めることが大切です。
ただし、精神障害の障害年金では、単純に「早く請求すればよい」とはいえないケースもあります。
その理由の一つが、審査の途中で行われることがある「カルテ照会」です。
カルテ照会とは?
障害年金では、提出した診断書などの内容だけでは判断が難しい場合、審査の過程で医療機関に追加の確認が行われることがあります。
その際、カルテ(診療録)の内容をもとに、症状や日常生活の状況、これまでの診療経過などについて確認されることがあります。
そのため、障害年金を請求するときには、診断書の内容だけでなく、
「もしカルテ照会が行われたら、どの期間の診療記録が確認される可能性があるのか」
というところまで考えておくことが重要です。
カルテ照会は数%程度。でもケースによっては50%以上になることも
当社で取り扱った案件全体でみると、カルテ照会が行われる割合は数%程度です。すべての請求でカルテが確認されるわけではありません。
ただ、当社の実務上の感覚としては、以前と比べてカルテ照会が行われるケースは明らかに増えています。
また、請求の内容によって、その可能性にはかなり差があります。
当社がこれまで取り扱った案件では、特に次のようなケースでカルテ照会が行われることが多く、ケースによっては50%以上の割合でカルテ照会が行われていると感じるものもあります。
たとえば、額改定請求や支給再開では、「以前の状態と比べて現在はどのように変化しているのか」が重要になります。
再請求でも、前回の請求時から今回の請求時までに、障害の状態がどのように変化したのかが確認されることがあります。
診断書だけではその経過を十分に確認できない場合には、カルテなどによって追加の確認が行われることがあります。
なお、「数%程度」「50%以上」という数字は、公表された全国的な統計ではなく、当社が取り扱った案件に基づく実務上の目安です。
請求内容や個々の事情によって異なるため、上記に該当すれば必ずカルテ照会が行われるという意味ではありません。
多くは「請求日から直近3か月」
では、カルテ照会が行われた場合、どのくらいの期間のカルテが確認されるのでしょうか。
当社が経験したケースでは、請求日からさかのぼって直近3か月程度のカルテを求められることが多くあります。
ただし、必ず3か月とは限りません。
たとえば、一度不支給となった後に再請求する場合には、前回の請求から今回の請求までの診療経過について確認を求められることがあります。
前回の請求が3年前であれば、その3年間のカルテを求められることもあります。
どの期間が対象になるかはケースによって異なりますが、当社の経験上、通常の請求では「請求日から直近3か月」が対象となるケースが多くみられます。
注意するのは「診断書の現症日」ではなく「請求日」
ここで、特に注意していただきたいポイントがあります。
カルテ照会を考えるときに意識するのは、
「診断書の現症日から直近3か月」ではなく、「請求日から直近3か月」
ということです。
たとえば、7月1日の診察をもとに診断書を作成してもらい、7月中に診断書を受け取ったとします。
その後、8月1日にもう一度診察を受け、8月末に障害年金を請求したとします。
この場合、診断書は7月1日時点の状態について作成されています。
しかし、カルテ照会で請求日から直近3か月の診療録を求められれば、診断書を受け取った後の8月1日の診察内容も確認される可能性があります。
つまり、
「診断書を受け取ったから、そこまでの診療記録だけが確認される」
とは限りません。
診断書を受け取った後であっても、請求前に診察を受ければ、その診察内容が審査の過程で確認される可能性があります。
ここは見落としやすいポイントです。
だから「請求日」から逆算して考える
カルテ照会を想定して請求時期を考える場合には、診断書の作成日や受取日ではなく、実際に障害年金を請求する予定日から逆算して考えることが重要です。
イメージとしては、
障害年金の請求予定日
↓
そこから直近3か月
↓
その期間に受診した診察日のカルテ
↓
診断書の内容との整合性
という順番です。
たとえば、最近になって主治医へ日常生活の困りごとを詳しく伝え始めた場合、その直後に診断書を作成してもらっても、それ以前のカルテには生活状況について詳しい記録がないことがあります。
もっとも、これは医師の記録が不十分という意味ではありません。
診療録はあくまで診療・治療のために作成されるものであり、障害年金の審査を目的として作成されるものではありません。
そのため、障害年金の審査で確認したい生活状況のすべてが、カルテに記録されているとは限りません。
診断書には日常生活上の大きな支障が記載されている一方、それまでのカルテにはそのような記録がほとんどない場合などには、審査する側が追加の確認を必要とすることも考えられます。
大切なのは「カルテ対策」ではなく、実際の生活を伝えること
ここで誤解してほしくないのは、障害年金を受給するために症状を必要以上に重く伝えたり、特定の内容をカルテに書いてもらったりする、いわゆる「カルテ対策」をするという意味ではありません。
大切なのは、実際に困っていることを普段の診察できちんと主治医に伝えておくことです。
たとえば、
「診察ではいつも『変わりありません』と答えているが、実際には家族に食事を用意してもらっている」
「一人で通院できているが、それ以外はほとんど外出できていない」
「仕事には行っているが、職場でさまざまな配慮を受け、帰宅すると何もできない」
といったことがあります。
また、精神科や心療内科に長く通院している方の中には、主治医に心配をかけたくない、良くなってきたと思ってほしい、主治医をがっかりさせたくないという気持ちから、診察室では実際より元気に振る舞ってしまう方もいます。
主治医から「最近どうですか?」と聞かれて、本当はつらい状態が続いていても、つい笑顔で「大丈夫です」「変わりありません」と答えてしまうこともあるでしょう。
しかし、診察室で元気に振る舞っていることと、実際の日常生活を問題なく送れていることは同じではありません。
診察の日には何とか身支度をして一人で病院まで来られていても、帰宅後は疲れ切って寝込んでしまう。診察以外の日にはほとんど外出できない。食事や掃除、買い物などは家族に頼っている――ということもあります。
こうした生活の実態を主治医に伝えていなければ、医師が把握することは難しく、結果としてカルテにも記録されないことがあります。
主治医に良く思ってもらうために、元気に振る舞う必要はありません。反対に、障害年金のために実際より重く伝える必要もありません。
大切なのは、良い日も悪い日も含めて、普段どのような生活をしているのか、どのような援助を受けているのかを、できる範囲で正確に伝えることです。
食事、入浴、掃除、買い物、金銭管理、服薬、通院、外出、対人関係、家族から受けている援助など、実際の生活状況を普段から主治医と共有しておくことが大切です。
これは障害年金のためだけではなく、主治医が患者さんの状態を把握し、適切な治療を行ううえでも重要なことです。
カルテには非常にプライベートな情報も含まれています
カルテ照会では、原則として請求者本人(社労士が代理している場合は社労士)を介して、医療機関と審査側との間でカルテの写しなどが郵送等によりやり取りされます。
もちろん、個人情報の取扱いには十分な配慮がなされています。
ただし、情報のやり取りを伴う以上、誤送付や紛失などによる個人情報流出の可能性を完全にゼロにすることはできません。
カルテには、病名や症状、治療内容だけでなく、家族関係や生活上の出来事など、非常にプライベートな情報が記録されていることがあります。
また、病歴や障害、診療・治療に関する情報そのものが「要配慮個人情報」に該当します。それ以外にも、診察時に話した内容によっては、別の要配慮個人情報が記録されていることがあります。
要配慮個人情報とは、本人に対する不当な差別や偏見などが生じないよう、特に慎重な取扱いが求められる個人情報として、個人情報保護法で定められているものです。
病歴や障害に関する情報のほか、健康診断・検査の結果、人種、信条、社会的身分、犯罪歴、犯罪被害を受けた事実などが含まれます。
こうした情報は非常にセンシティブなものであり、万が一外部に流出した場合には、本人の生活や社会生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
もちろん、治療に必要なことや実際に困っていることを主治医に伝えないほうがよい、という意味ではありません。
必要な情報は正確に伝えることが大前提です。
そのうえで、カルテには障害年金の審査に直接関係する情報だけでなく、非常にプライベートな情報が含まれていることがあります。
カルテ照会が行われた場合には、それらを含む診療記録が審査資料として提供される可能性があることも、あらかじめ知っておくとよいでしょう。
では、3か月待ってから請求したほうがいい?
ここまで読むと、
「それなら、3か月分のカルテが整ってから請求したほうがいいのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。
事後重症請求では、原則として請求した翌月分から年金が支給されます。請求を1か月遅らせれば、受け取れる年金も1か月分少なくなる可能性があります。
また、請求を待っている間に、初診日の医療機関のカルテが廃棄されるなど、別の問題が生じることも考えられます。
つまり、
「とにかく早く請求する」
のが常に正解でも、
「3か月待ってから請求する」
のが常に正解でもありません。
カルテ照会を理由に、機械的に請求を3か月遅らせる必要はありません。
早く請求するメリットと、少し待ってから請求するメリット・デメリットを比較して、個別に判断することが大切です。
請求書類だけでなく「その先」まで考える
障害年金の手続きというと、診断書や病歴・就労状況等申立書をどのように作成するかに目が向きがちです。
もちろん、それらは非常に重要です。
しかし、書類を提出したら終わりではありません。
審査の途中で追加資料を求められたり、医療機関へのカルテ照会が行われたりすることがあります。
カルテ照会が行われる割合は、当社で取り扱った案件全体では数%程度です。しかし、請求内容によって差があり、オンライン診療、再請求、額改定請求、支給再開などでは、当社の経験上、ケースによって50%以上の割合でカルテ照会が行われていると感じるものもあります。
また、当社が経験したカルテ照会では、診断書の現症日ではなく「請求日」から直近3か月のカルテを求められることが多いという点も重要です。
診断書を受け取った後の診察であっても、請求前であれば、その診察内容が確認される可能性があります。再請求などでは、さらに長期間の診療経過を求められることもあります。
だからこそ、
「カルテ照会されるか、されないか」を予想するのではなく、「照会が行われた場合にも、診断書と実際の診療経過との間に大きな食い違いがないか」という視点を持っておく。
そのために特別な「カルテ対策」をする必要はありません。
実際の生活状況を普段から主治医に伝え、診断書を受け取った日だけではなく、実際の請求日から逆算して、その後の審査まで見据えて請求時期を考えることが大切です。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
- 社会保険労務士・精神保健福祉士
