カルテ照会とは
当社では、令和6年の春頃から障害年金の不支給倍増を巡る報道(以下、報道)が始まった今年3月まで、カルテ照会が毎月数件ありました。
カルテ照会とは、カルテの記載内容の確認が必要と判断した審査側が、請求者に対して医療機関が保管しているカルテ(診療録)写しの取り寄せと提出を求める返戻です。
カルテ照会の目的は「傷病の変遷、症状の経過、日常生活状況等の変遷の確認」とされていますが、カルテの一文を取り上げて不支給や2級相当の診断書でも3級に級下げの理由になるなど、請求者側にとって不利に扱われることが多いです。
報道では、目的が不支給の理由を探す(と印象を与えるような)カルテ照会に対しても記事にしていたこともあり、審査側はカルテ照会を一時期見合わせていた印象があります。
当社では報道後の令和7年4月~7月中旬頃まではカルテ照会の返戻はありませんでした。
令和7年6月11日、共同通信による障害年金不支給倍増に関する一連の報道を受けて、厚生労働省が調査報告書(以下、調査報告書)を公表しました。
報告書にはカルテ照会の妥当性に関する直接的な言及はありませんでした。しかし、「ヒアリングによると、診断書等に疑義があった場合は、医師等へ照会するなどの話があり、認定基準に定めるプロセスを逸脱している事実は確認できなかった。」結論付けました。
つまり、厚生労働省が「(カルテ照会を含む)認定プロセスに問題はない」とお墨付きを与えたことで審査側は再びカルテ照会を多用するようになりました。当社では令和7年7月下旬よりカルテ照会が再び多くなりました。
カルテ照会になりやすい3つのパターン
1不支給直後の再請求
不支給後、空白期間(概ね1年)をあけずに再請求(新規裁定請求のやり直し)を行う場合、前回の診断書よりも著しく重い判定になっているパターンは要注意です。
再請求の審査では前回の診断書と比べられ、短期間での症状の増悪について筋がとおっていない場合はカルテ照会を求められる可能性が高いです。
2医師の所見記述が少ない
医師の所見とは、問診による精神医学的所見、病状の程度、治療の内容等を記載する項目で診断書の表面右下にある⑩障害の状態(イ 左記の状態について、その程度・症状・処方薬等の具体的記載)のことです。この項目が1~2行のあっさりとした記述だと病状の全体像を掴めず、カルテ照会を求められることがあります。
障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領
3「日常生活能力の判定・程度」が著しく重度判定
例えば、気分障害で「日常生活能力の判定・程度」が1級相当だと、重篤なそうやうつの症状が長期間持続したり、頻繁に繰り返し、入院を要する状態をイメージします。しかし、医師の所見欄は、そこまで重度であることが窺われない印象を与えるチグハグな記述の場合、カルテ照会を求められることがあります。
カルテ照会は個人情報保護を理由に断ることができる
カルテは患者の主訴、客観的な所見や検査結果、診察所見、それらを基にした診断(医師の判断)、治療内容(処置や手術、処方等)の記録ですが、それ以外にも多くの個人情報等が含まれています。中には、犯罪被害歴、性的指向、宗教など極めてセンシティブな情報が記載されていることがあります。
これらの情報について、障害年金審査のためであっても知られたくないという方はいらっしゃるかと思います。
カルテを外部機関へ提供し、万が一流出すれば、重大な被害をもたらす危険性があることは言うまでもありません。
個人情報保護について心配な場合は、率直に審査側に伝え、代替案(アンケート形式による医師照会など)を提示してもらうようにしましょう。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士

