医師照会と要個人情報保護
社会保険労務士・精神保健福祉士の小西です。
医師照会(カルテの提供)が急増していることについて過去2回取り上げました。
今回は医師照会(カルテの提供)と要配慮個人情報保護のどちらを優先すべきか当社の考えを書きたいと思います。
どんな情報が個人情報になるのか
個人情報保護法において個人情報とは、生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔写真などにより特定の個人を識別できる情報をいいます。
これには、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものも含まれます。例えば、生年月日や電話番号などは、それ単体では特定の個人を識別できないような情報ですが、氏名などと組み合わせることで特定の個人を識別できるため、個人情報に該当する場合があります。
政府広報オンライン
要配慮個人情報とは
要配慮個人情報とは、「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報」をいいます。(改正個人情報保護法2条3項)
要配慮個人情報は個人情報に内包するセンシティブな情報を指し、図にすると以下のとおりです。
要配慮個人情報が定義された背景
2017年に改正された個人情報保護法にて新たに要配慮個人情報が定義されました。
定義された背景には次の理由が挙げられます。
- センシティブな個人情報を含むデータを不正取得する事件が相次いだこと
- グローバル基準に適合する必要性
特に②について、センシティブな情報の取得を原則禁止しているEU域内からの個人データ取得を可能にするため、国内法を整備する必要がありました。
カルテには要配慮個人情報が含まれている可能性がある
精神科のカルテには、患者の全体像を把握するため、病歴のほか、政治・宗教的信条、生まれ育った境遇、犯罪被害歴など要配慮個人情報が記載されていることがあります。要配慮個人情報には定義されていませんが、性生活や性的指向などセンシティブな情報もカルテに含まれていることもあります。
医師照会(カルテの提供)が抱えるリスク
これらの情報は障害年金の等級判定には必要のない上、郵便事故を含め万が一流出すれば本人に重大な被害をもたらす危険性があります。医師照会(カルテの提供)に応じる場合はこのことを十分に認識したうえで対応する必要があります。
当社では、再請求、額改定請求、支給停止事由消滅届など、医師照会(カルテの提供)の可能性がある手続きを行う際に、(依頼者の希望を確認したうえで)下の文書を添付するようにしました。
日本年金機構は医師照会(カルテの提供)の理由を「傷病の変遷、症状の経過、日常生活状況等の変遷」の確認と説明することが多いです。円滑かつ適正な年金業務のため、日本年金機構の求めにはできる限り協力するべきですが、カルテにこれらの情報が盛り込まれているとは限りません。それよりも具体的に確認事項を示した医師照会を求める方がより確実に必要な情報が取得できます。
なお、当社では、日本年金機構と十分なコミュニケーションの上で文書を提出しています。個人で類似の文書を提出したことにより却下などの不利益が生じたとしても、当社は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。

- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士