事後重症請求(請求月に受給権が発生する請求方法)は、当月中に請求すれば翌月に請求するより1か月分多く受給できることがあるため、「正確性」だけでなく「スピード」も重要になります。
では、遡及請求(障害認定日請求)ではどうでしょうか。
遡及請求は、障害認定日(原則として初診から1年6か月後)に障害等級に該当していた場合、その時点まで遡って年金を請求する方法です。
実務では、障害認定日から5年以上経過しているケースも少なくありません。そのような場合、
「偶数月中に請求すると、翌月に請求するより2か月分多く受給できることがある」
という話があります。私も社労士として障害年金の実務に携わる中で、そのようなケースを多く経験してきました。
しかし、「なぜ2か月分の差が生じるのか」を詳しく説明している資料はあまり見当たりません。
そこで今回は、この実務上よく知られている現象について、できるだけ分かりやすく解説したいと思います。
時効は請求日から5年前」で決まるわけではない
「5年遡及」と聞くと、「請求日のちょうど5年前まで遡れると思われる方も多いかもしれません。
しかし、実際にはそう単純ではありません。国民年金法第102条では、年金の支分権(年金を各支払期ごとに受け取る権利)は支払期月の翌月初日から5年で時効になると定められています。
また、年金は偶数月に前2か月分がまとめて支払われます。この2つの仕組みが組み合わさることで、請求日によって受給できる期間に差が生じることがあります。
~具体例~
例えば、
- 障害認定日:令和2年10月5日
- 障害認定日に障害等級に該当していた
- 遡及請求(障害認定日請求)を行う
というケースを考えてみます。
①令和8年8月31日に請求した場合
令和3年6月分・7月分の年金は、令和3年8月が支払期月です。
支分権の時効は、支払期月の翌月初日である令和3年9月1日から5年となるため、令和8年8月31日の時点ではまだ時効は完成していません。
このため、令和3年6月分・7月分も受給対象となります。
②令和8年9月1日に請求した場合
一方、令和8年9月1日になると、令和3年6月分・7月分の支分権は時効が完成します。
その結果、受給対象となるのは令和3年8月分以降となります。
わずか1日で2か月分の差になる理由
この例では、
- 8月31日に請求した場合
→ 令和3年6月分・7月分も受給できる - 9月1日に請求した場合
→ 令和3年6月分・7月分は時効により受給できない
つまり、請求日が1日違うだけで2か月分の差が生じます。
これは、年金が2か月分ごとに支払われる仕組みと、支分権の時効が支払期月ごとに進行する仕組みによるものです。
実務上のポイント
障害認定日から5年以上経過している案件では、請求時期によって受給額が変わる可能性があります。もちろん、診断書の取得状況や初診日の確認など、請求を急げない事情もあります。
しかし、必要書類が整っているのであれば、「あと数日だから来月でいいか」と考えず、できるだけ早く請求することが重要です。
障害年金では、わずか1日の違いが数十万円の差につながることもあります。請求時期についても十分に検討したうえで手続きを進めることをおすすめします。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士

