事例の概要
先日、関東信越厚生局社会保険審査官より、審査請求(一審)の決定書が届きました。
結果は、請求側の主張が認められ、保険者(厚生労働大臣)の請求日3級決定を取り消し、請求日2級を支給する旨が記載されていました。
ご依頼者は「双極性感情障害」により日常生活に著しい支障があることから当社へ障害厚生年金(遡及請求)の申請代行を依頼しました。
遡及請求は障害認定日(初診から1年6か月後)と現在(請求日)、2枚の診断書で等級判定されます。
取得した診断書を確認すると、障害認定日、請求日の2枚とも2級相当でした。ただし、障害認定日の直後に5年近く通院中断している期間があったため、中断期間が差し引き要因となり「障害認定日3級」に決定することが想定されました。
現在は「ひとり暮らし」「休職中」「処方薬が初期量」など不利になる要因はなく、診断書の内容に沿って「請求日2級」に決定することが想定されました。
このように「障害認定日3級」「請求日2級」と想定する場合、額改定請求を提出することが重要です。
審査では障害認定日と現在の診断書は別々に等級決定します。
ところが、障害認定日と現在(請求日)の決定等級が同じ場合、形式上は障害認定日しか審査(処分)を行っていません。
処分を行っていないことに対して不服申立てはできません。額改定請求を提出していれば、「請求日3級」になった場合、額改定請求に対しての審査(処分)を行うことになるので、その処分に対して不服申立てが可能になります。
| 診断書の時期 | 障害認定日 | 請求日 |
|---|---|---|
| 診断書の内容 | 2級相当 | 2級相当 |
| 想定の等級 | 3級 | 2級 |
| 想定した理由 | 障害認定日後に通院中断 | 2級非該当の要素なし |
| 決定した等級 | 3級 | 3級 |
審査結果は「障害認定日3級」「請求日3級」でした。「障害認定日3級」は想定どおりだったものの「請求日3級」は想定外でした。経過を下の表にまとめました。
判断の根拠となった事実関係等
年金額変更不該当通知書に添付された【判断の根拠となった事実関係等】に2級非該当(請求日3級)とした具体的な理由が記載されています。
そこに3つの理由が示されていましたが、上2つは定型的なもので、本質的な理由ではありません。残るひとつは審査途中にカルテ照会があり、そのカルテが摘記(青字)されていました。
当社の対応
審査側は診断書や病歴・就労状況等申立書だけで不支給または級下げとするだけの明確な根拠が乏しいときは、カルテ照会を求める傾向があります。今回のケースでは、審査側は2級非該当(3級)の理由として「学校行事の参加」「睡眠薬のみの服用」を挙げています。
審査請求書は審査側が挙げた2つの理由に対する反論を中心に構成しました。
- 学校行事の参加について
- 「小学生の子を持つ親としてPTAなどの学校行事があるけれども、参加することができず自責の念を吐露している様子がうかがわれる。実際に学校行事等に参加した記述ではない。」
- 処方薬について
- 「『不眠時は1回だけ使いました』は不眠時に使用する頓服薬の記述であり、双極性感情障害の治療薬(気分安定薬)は1日2回欠かさずに服用している。」
処分取り消しにより障害厚生年金2級に決定
原処分(請求日3級)が取り消され、障害厚生年金2級が決定しました。
ところで、物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になる心理現象を「認知バイアス」といいます。【判断の根拠となった事実関係等】にあるカルテの摘記(青字)を素直に受けとれば、「学校行事の参加」「睡眠薬のみの服用」と理解しないはずです。このことから、審査側は「認知バイアス」が影響した状態でカルテを読み込み、結果として誤った判断をした可能性があります。
- 小西 一航
- さがみ社会保険労務士法人
代表社員 - 社会保険労務士・精神保健福祉士
